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東京高等裁判所 昭和41年(ネ)1671号 判決

控訴人

株式会社マルマン

右代表者

片山豊

代理人

向山隆

被控訴人

ロヂ・ウント・ヴイーネンベルゲル・アクチエンゲゼルシャフト

右代表者

ヘルムート・シェルホルン

ウォルター・シュパイデル

代理人

湯浅恭三

外四名

主文

1  原判決の控訴人敗訴部分中、別紙第二目録第一三号の図面および説明書記載の腕時計バンドならびにその製造に必要なダイス(型)に関する部分を取り消す。

2  控訴人に対し、別紙第二目録第一三号の図面および説明書記載の腕時計バンドの製造、譲渡、貸渡しおよび譲渡もしくは貸渡しのための展示ならびに控訴人の本支店、営業所および工場にある該腕時計バンドおよびその製造に必要なダイス(型)の廃棄を求める被控訴人の請求は、棄却する。

3  控訴人のその余の控訴は、棄却する。

4  訴訟費用は、第一、二審を通じて、これを三分し、その一を控訴人、その余を被控訴人の各負担とする。

5  原判決主文第一、二項中、別紙第一目録第一二号の図面および説明書記載の腕時計バンドならびにその製造に必要なダイス(型)に関する部分は、被控訴人が金五〇万円の担保を供することにより、仮りに執行することができる。

事実〈省略〉

理由

〈前略〉

また、控訴人は、板発条の張力のみによる確保は物理的、技術的に不可能であり、確保の意義を前記認定のように解するときは、時計バンドがその装着、取外しに際し伸延しつつひねり、斜めに引張られる等伸延曲折が常でないものである関係上、結合彎曲片が鞘中から脱落してバンドがバラバラとなるに至り、かかる発明は時計バンドとして工業的に実施不能であると反論する。たしかに、前記認定のように解したところをそのまま実施に移したものにあつては、控訴人主張のような事態を起すことは、全く考えられないところとはいえない。しかしながら

(一)  すでに認定したところから判るように、結合彎曲片の鞘中からの脱落防止は本件の特許発明の目的ではなく、したがつて、確保の意味を先に認定したように解することは、この発明の実施に際し、実施者が結合彎曲片の鞘中からの脱落防止のために適宜の手段を講ずることを妨げるものではないと解されること

(二)  結合彎曲片の鞘中からの脱落防止手段をとくに構成の要件としなくても、その必要は平均的な技術専門家には自明であり、その方法は当業者が容易に考えうるものであることをうかがいうること

を合わせて考えると、特許請求の範囲を脱落防止の手段には触れていないように解したからといつて、発明の工業的実施が不能となるものということはできない。したがつて、控訴人の叙上の主張も理由がないものというほかはない。〈中略〉

ただ、第一二号物件にあつては、結合彎曲片の「他方の脚をもつて他方の組の転位して位置する隣接せる下部リンク鞘中に挿入した後、折曲部を折り曲げてこれを彎曲片の肩部に沿わせている」構造を有し、その結果として、下部リンク鞘の両端に折曲部(上向きに折り曲げた舌片)を有し、下部リンク鞘の形状において特許発明の下部鞘とは多少異なるものとなつている。しかし、これは、彎曲片が鞘から逸脱するのを防止する作用をするものであるは前述のとおり当事者間に争いのないところであるから、本件特許権の特許発明の構成要件が先に二で判示したとおりであるとする以上、この舌片の存在ないしこの点に関する下部リンク鞘部の構造的相違は、本件の特許発明については附加的なものといわなければならず、したがつて、第一二号物件が本件特許権の特許発明の技術的範囲に属するかどうかの検討に当つては、考慮することを要しないものとしなければならない。

以上のように、第一二号物件は、本件特許権の特許発明の要件をすべて具備している以上、特段の事情の認められない本件にあつては、少なくとも本件特許権の特許発明と同一の作用効果をも有するものと推認して差しつかえない。

もつとも、控訴人は、第一二号物件につき、同物件が本件特許権の特許発明とは作用効果を異にするとして、……主張する。しかし、これらの作用効果は、いずれも、本件特許権の特許発明が彎曲板発条と結合彎曲片とを特定の構造形態において掛合し結合彎曲片の脱落を防止することを要件とするものであるとの前提に立脚した主張反論であることが自明であるから、既に判示したとおりこの前提が否定される以上、その主張のそれぞれの内容の当否に立ち入つて判断するまでもなく、採用の限りでない。

以上に判示したとおり、第一二号物件は、本件特許権の特許発明の要件をすべて具備し、かつ、少なくともこれと同一の作用効果を奏するものであるから、右特許発明の技術的範囲に属する。〈以下略〉(服部高顕 荒木秀一 石沢健)

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